ファズマニアの中で知られた(すなわち一般には知られていない)D*A*Mが手掛けるEmanating Fist Electronicsによるビッグマフ系、特にラムズヘッド系のペダルである、Dope Priest DP-77 ZDを購入したのでレビューします。低音域の飽和感をはじめとしてマフっぽさを感じさせつつ、中低音域をすっきりさせて音抜けの良い乾いたサウンドを出してくるあたりは、狙いすましたチューニングを感じさせます。
Emanating Fist ElectronicsとD*A*Mについて
Emanating Fist Electronicsは、ファズ、特にブリティッシュ系、その中でもトーンベンダーの再現ペダルを得意とすることで有名なD*A*Mによるブランドです。D*A*Mは、かつてトーンベンダーの本家本元のリイシューペダルを手掛けたりしているほどなので、本家に片足突っ込んだ人って感じです。
Emanating Fist Electronicsの位置づけは時期によって違いがあるようです。当初は、ハンドワイヤードモデルがD*A*M、プリント基板がEmanating Fist Electronicsという位置づけだったようです。現在、D*A*M名義の製品が市場に新品で出ることがほとんどないため正確には分かりかねますが、希少な廃番部品を用いたものがD*A*M(60年代のモデルを元にしたものが多い)、Emanating Fist Electronicsは比較的手に入りやすい部品を持ちいたもの(70年代のモデルを元にしたものが多い)という特徴があるようです。D*A*Mの得意とする選別はしっかりとEmanating Fist Electronicsでも行われているとのこと。以前は「たまに生産」といった様子だったようですが、2024年夏ごろから精力的に生産されており、Reverbの公式ショップでは何かしら在庫が残っている状態を維持しています。
※追記:ちなみに、2024年年末にCustomshopとして(たぶんD*A*M名義)で、9個(4個だったかも)セットで150万円越えの商品がReverbに新規出品されていました。1個で15万円かと思ったら桁違いでした。詳しくは書かれていませんでしたが、ゲルマニウムトランジスタを安定稼働させるヒーター付きのファズでした。そして一晩で売れていました。怖っ!!
Dope Priestのラインナップ
Dope PriestはBig Muff Piをベースにしたモデルです。かつてはDope Priest XDという名前で販売されていました。さらに遡るとD*A*Mで販売されていたRam Head(ラムズヘッドベース)が元になっています。
現在のDope Priestは、今回レビューするデカい筐体と、比較的コンパクトな筐体の大きく分けて2種類が存在します。そしてそれぞれにモデルが存在します。
大きな筐体
・DP-77 ZD:ラムズヘッドがベース
・DP-93 ZD:#7と呼ばれるブラックロシアンがベース
・DP-93K ZD:グリーンロシアンのシビルウォーがベース
小さい筐体
・DP-70:トライアングルがベース
・DP-75:DP-77の「Precision version」
・DP-93:ブラックロシアンがベース
Dope Priestは結構昔から存在して、大きな筐体でトライアングルをベースにしたものがありました。今は作っていないだけか、売れて無いのか、そのあたりは不明です。
Dope Priest DP-77 ZDについて
ベースとするのは、人気のあるラムズヘッドの中でも76年から77年に製造されたものだそうです。一般的に、70年頃から「トライアングル」あるいはV1の製造がはじまり、「ラムズヘッド」あるいはV2は73年頃「みんなが思うラムズヘッドのデザイン」に変更されたとされています。ちなみに、現在のエレハモのラムズヘッドリイシューは、73年のヴァイオレットの個体をベースにしているとされています。
77年頃には現在の普通のビッグマフ(リイシュー)のデザイン(V3)に変更されますが、中身はラムズヘッドのままという期間があり、その後、オペアンプを使った回路に変更されて「オペアンプマフ」となります。リイシューは、それまでのトランジスタを用いた回路をベースにしながら独自のチューニングがされています。
ちなみに、〇八さんの個体は77年ですね。
さて、話を戻すと、DP-77はラムズヘッドの中でも最後の最後の個体をベースにしています。とあるショップの売り文句としては「まさにそのまんまで、何も変えていないし、何も弱めていない」ということですが、実際のところはどうなんでしょう?
トランジスタはBC549Cで、普通のフィルムコンデンサが用いられています。抵抗は部分的に容量の大きいものが用いられており、音作りをしているのかな?と思われます。
Dope Priest DP-77 ZD レビュー
先に断っておきますが、私は77年ごろの個体の音を聴いたことはありません。ただ、ラムズ前期の中でも当たりの個体2つの音と、DP-77 ZDの音を同時に聴いたことがありますので、比較としては「まだまし」なレベルだと思います。お許しください。
さて、DP-77 ZDを端的に表現すると「ローミッドは少なめですっきりとしている」「ローエンドの飽和感はあって、ビッグマフっぽさが残っている」「ゲイン控えめの領域が広く、ゲインの最大量は必要十分」「歪みの質は鋭く、キレがある」「トーンコントロールが扱いやすい」「音量はそれなりに大きいがクソデカではない」といったところです。歪みの質の鋭さはゴリゴリとした歪み感に鋭い切っ先があるような印象で、この鋭さがなかなか得られないので気に入っています。
すっきりしていて鋭いというところが他のラムズヘッド系モデルに比べた時の特徴です。ラムズ前期の当たり個体の1つは、CULTのARMSのベースとなった細川氏所有のラムズなのですが、これは低音も高音もバリバリ出るやつなので参考記録、もう一台はミッドが出ていて、DP-77よりも低音が出ていました。鋭さもある。DP-77 ZDはこれらに対して「乾いた」印象があります。
そして、現行のRam’s Headリイシューは、低い低音は少なめで中低音に集まっており、切っ先が丸くてクリーミーな方向性です。Organic SoundsのThe Towerも(リイシューと比べると格が違いますが)中音域が厚い、比較的クリーミーなサウンドとなっています。
さて、機材などとの組み合わせについて。まず、アンプですがジャズコでもいけます。Fender Hot Rodなども良かったです。次に、シングルかハムかについて。こちらはそれぞれに良さがあります。ローパワーなリアシングルはディストーションさせたアンプっぽさが出て、パワーコードを掻き鳴らしたくなります。PAF系のハム(Custombucker)との相性も悪くない。厚みとエッジ―さが同居したようなサウンドとなります。気持ちが良い。ハイパワー系ハムも悪くないですが、個人的には若干トゥーマッチな印象となりました。
次に、前段に何かを置いてプッシュした場合。これがなかなか良いのです。ミッドが厚いTS系なら、低音が整理されながらDP-77の薄めのミッドと噛み合って、鋭さもあるディストーションサウンドになります。これが本当に気持ちが良い。ただし、低音が削られてすっきりし過ぎる(このペダルじゃなくても良い)と評価する人もいるかもなぁと感じます。
個人的には、ゲインを上げてTSでプッシュするのも好きな一方、ゲインを低めにして、低音が整理されたOD(自分はEMD PD-1)もローゲインでプッシュして、フロントシングルとかでセブンスのコードを掻き鳴らしたりすると、疾走感のある邦ロックとかに最高です。
最後に
めちゃくちゃ気に入っているのですが、数点欠点を。
まず、デカい。アーミーグリーンロシアンとかシビルウォーと同じサイズ感です。これを持ち運ぶのは心が折れます。そして高い。現地価格で約4.5万。日本価格で約6万です。(海外からの送料と消費税、輸送トラブルのリスクなどを考えると日本価格は超妥当、むしろ良心的です。)
あんまり売っていませんが、気になる方はぜひ。
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