友人が10年以上前に購入したBUSKER’Sの激安ベースのメンテをしました。弦高が異常に高く、しかもブリッジのコマを下げても改善しません。どうしたものかと調べていたらボディー全体が反っている模様……。
というわけで、今回はこの個体のメンテ(修理)を通じて、激安ギターやベースを買うと遭遇してしまうかもしれないトラブルを解説しつつ、激安ギターやベースを買うことの注意事項をまとめました。
この記事の立ち位置
先に、今回の記事の目的といいますか、記事にしたきっかけを書いておきます。
私は「安いギター&ベースを買うな」なんて思っていません。楽器経験の無い親御さんが、子供がギターやベースを始めたいと言って、いきなり10万円を超えるモデルを買い与えるってハードルが高いし、続くか分からないし。それなら安いギターで始めて、上達したら良いギターにステップアップするというのは非常に良いと思っています。
また、近年の安いモデル(島村楽器とかで売ってる初心者向け)なら、高価格なギターを製造している工場が安いラインとして生産している=設備はしっかりしているということもあって、構造はちゃんとしているため、昔に比べて初心者向けギターのレベルは上がっています(値段も上がっているけど)。
一方、超激安ギターを買ったり、ハードオフとかで昔の安いギターとかを買うとハズレを引いて、めちゃめちゃ弾きにくくて、ギター/ベースを辞めてしまうということも十分に考えられます。そういう、激安すぎるとかハードオフで適当に買うとハズレもあり得るけど、きっちりと手を入れれば良くなります(手を入れないと大変です)ということをレポートするという内容です。
今回の患者は10年以上前のBUSKER’Sの激安プレベ
今回取り上げるのは、友人が10年以上前に購入したBUSKER’Sのプレシジョンベースタイプです。


みごとに埃だらけです。ジャックが内部に落ちていますが、これは友人と弄りながらピックガードのカバーの端切れ(ラップみたいなの)を外しているときに(友人が)ミスっただけです。
「ベースって、弦を押さえるのが難しいですよね」と友人が言うものですから、見せてみなと言ったのが今回のきっかけです。見てみると弦高が高すぎです。びっくりします。5mmはあった。
はいはいネック反りねとみたら、軽く順反りしているものの、これぐらいはあり得るのでは?という程度です。んんんん?とブリッジを下げても改善せず。どういうことだってばよ?
激安ベースに発生した「ネック反り」ならぬ「ボディー反り」
ベースを抱えて、何気なくボディを反らせるようにくいっと力をかけると、弦高がめちゃくちゃ変わる。いくらなんでもこれは変わりすぎる!ということで、ネックポケット周りの作りが甘いのか、ボディー全体が反っている!と予想しました。
ネックの取り付けがグラグラってわけではなく、固定力はあるのでボディー反りかなと。プレベというかベースはボディー端に取り付け部があって、しかもプレベは弦の取り付け位置が高い(裏通しではない)のでボディーを反らせる方向に力がかかりやすいんですよね。
シムを入れてネック角をつける
ボディーを反らせないように補強を入れることは現実的ではないので、対処療法的にネックにシムを入れてネック角をつけます。メンテとかをやっていない人は「???」って感じかもしれませんね。クソ雑ですが図にしました。

相対位置から考えると、ボディー反りによってブリッジが高くなっているので、レスポールのようにネック角をつけることで位置関係を正します。言い換えると、弦とネックを平行の位置関係ににもっていきます。
自分の古い名刺3枚を(階段状にして坂道になるように)貼り付けてやっと位置関係がマシになりました。最初、2枚で組んだ時にバランスが良かったのですが一晩経って弦高が上がっていました。力のかかり方が変わったのか、シムか、シムを挟んだ部分が凹んで落ち着いたのか。ネックの調整でも大きく動かすと落ち着くまでに時間がかかったりしますね。ギターやベースの調整の難しさですね。
一応言っておきますが、目視ではボディーが反っているという感じはありませんでした。たぶん、ほんのちょっとだけだと思います。そのちょっとの差が大きく効くのでやっかいですね。
ちなみに、ボディー側のネックねじ止め穴はネジに対して大きく(いわゆるバカ穴で)ないとダメですが、このギターでは木ネジが効くぐらいに狭い穴でした。これではネックをしっかりと保持できません。古い激安ギターあるあるです。最近の物はそんなことないと思っています。(たぶんね) ボディー側のネジ山をつぶして仮対処します。
ネックポケットや穴位置も微妙で、仮組するとネックが曲がって付いて弦落ちしそうになりました。グッと力を入れて真っ直ぐにしながら締めこみました。これぐらいはよくあることです。
基本メンテも併せて行います
ペグ周りは緩みやすいので増し締めします。動きが渋いのでグリスアップします。タミヤのセラミックグリスを使ったりしていますが、何か良い物ってありますかね?

激安ギターやベースにありがちなフレットのエッジの処理不足を是正
安いギターにそこまでを求めるのは酷ですが、フレットのエッジの仕上げは良くありませんね。何が好みでないかというと、かまぼこ型の端が刃先のようになっていて、スライドした時とかに指に僅かに引っ掛かります。許容できるレベルというか、こういうのはよくあるものでしょうが、ちょっとしたひと手間、いやふた手間ぐらいで良くなるので手当てします。


活躍するのは、愛用する魚地球印のフレット用ヤスリ。普段はもともとの設計思想と異なる使い方をしているのですが、今回は設計思想に合った使い方です。

端の端を丸めようとすると、私の技術ではどうしても傷がついてしまいます…。

紙やすりを使ってなだらかに仕上げます。

ジャックの接触不良が持ち主から報告されていたので、思い切って交換します。安そうな部品が使われていたのでグレードアップになるのでしょうかね。SCUDの日本製をつけました。好みで、オヤイデで購入した銅単線を使いました。
仕上げ前に微調整をします
古い弦を張りなおして、弦高をだいたい合わせて、全ポジションで軽く弾きます。12フレ以降であたりでビビリが酷いので 部分的にすり合わせてネック根元に向けてフレットが低くなるように擦ります。
その状態でも2弦15フレットだけでビビリが生じるので、弦をずらしながら16フレットにヤスリをかけて調整します。できたら弦を交換します。ボディーが反っているということでテンションを下げるために40-100を張ります。テンションが下がりすぎて位置関係が変わりすぎると嫌だなぁとも思いましたが大丈夫でした。


激安ギター・ベースは苦労することもあるかもよって話
というわけで題名を回収します。
先に、バスカーズ(特に現在の個体)がすべてこんなことになるとは思っていません。これは10年以上前に買った、とある安いギターがこうなったということです。新品状態でこのような反りが出ていたかどうかも分かりません。(さすがに無いと信じたい) 5年10年経った結果と考えましょう。
それに「めちゃくちゃひどかった!」とも思っていません。ネックは真っ直ぐでしたし、トラスロッドは動きは渋いものの効いていました。フレットが音痴ってことも無いように思いました。そういう観点では作りは良かったです。
さて、今回、クリーニングや弦交換といった基本整備と、オプション的なフレットの処理を除き、良い状態だなと言えるようにするには以下の整備が必要でした。
・異常の診断
・ネックにシム挿入
・ネック位置関係調整によるコマ高さの見直し
・すり合わせ(微調整)
・弦ピッチの微調整
こういった整備では弦交換がセットになっていることがほとんどなので、ベース弦(高いですからねぇ)3000円を考慮して、良心的な店でも合計1.5万円と言われそうだなぁと思いますし、2万円と言われても不思議ではないです。フレットのエッジ処理も含めると2.5万円ぐらいしてもおかしくないです。
これを、新品2~3万円、ハードオフでも1万円クラスのギター/ベースで出費するか?という問題や、そもそも、その状態が異常であるということに初心者が気付けるのか?という問題もあります。弾きづらさを自分のテクニックの無さと勘違いして、ハードオフに流れる可能性は高いです。
最近の、ちゃんと検品して調整して売るまともなショップなら、今回の物が新品で入荷したとして検品NGあるいは調整して売ってくれると思います。近年は安いギターのレベルが上がっているので、通販で横流ししているだけのショップであっても、このようなNGは少ないかなぁと思いつつ、可能性はゼロではないと思います。
以上から、私から初心者へ以下のように提案します。
・買うなら実店舗でメンテも面倒見てくれる店へ
・詳しいスタッフさんが居ると◎
・可能なら詳しい人に同行してもらう
・ハードオフで売られている激安ギターは避けよう
(こういう個体が混じっている可能性が上がる)
難しいのは、5万円クラスまで出せば危険を回避できるか?と問われるとそうとも言い切れず、しかも1~2年経過した後の状態というのは分からないものです。10万円以上、もっと高額なギターでもネックが反りまくって困るなんてことはあります。
そういう観点からも、メンテもしっかりしていて面倒を見てくれるショップを探すというのが重要なのかもしれません。
最後になりましすが、ハードオフが悪いみたいな文章になってしまいましたがそういう意図はありません。ハードオフは楽器を楽器のプロとして売るショップではないですし、売った後の面倒を見ることを商売にしていません。売る前に微調整してくれる店員さんもいると思いますが、ここまでの修理はやらないでしょう(商品価値を損ねる可能性もある)。提携工房でメンテ済みという商品もあるかと思いますが高価なモデルに限られ、今回のような激安ギターが対象となることは無いと考えるのが妥当です。新品3万円のモデルを5000円で買い取って、業者に2万円で修理してもらって利益載せて3万円で売りますかね? そういうことです。