昨今は様々なラインナップがあるBig Muff Piですが、ビッグマフと聞いてイメージするデカい筐体の一番普通な奴である、現行のBig Muff Pi Reissueを購入しました。基板のバージョンはEC-3003 REV.Fと、おそらく2024年時点で最新バージョンです。2000年直前に「3rdタイプのリイシュー」として登場した本作ですが、ビッグマフの歴史を振り返りながらレビューしてゆきたいと思います。
Big Muff Piの歴史をおさらいする
一般的に、ビッグマフと名前が付けられたモデルは、70年頃から「トライアングル」あるいはV1と呼ばれるモデルの製造がはじまり、73年頃に「ラムズヘッド」あるいはV2と呼ばれるモデルに刷新されたとされています。より正確には、最初期には「組み立てキット」と併売されており、その頃特有の蛇の目基板を使用したものもあります。この頃の個体を再現したのが、Roshi PedalsさんのGRUFF Resultです。
回路定数は変遷がある(そもそも個体差がでかい)ようですが、V1はジャリっとバリバリしたファズっぽさがあるとされ、ラムズヘッドはもう少しミッドが出て中高音から低音にかけて押し出すようなディストーションサウンドになったと私は認識しています。
77年頃に、今回レビューする外観に変更されます。これがV3とか3rdと呼ばれるものです。ただし、外観は変わっても中身はラムズヘッドのままという期間がありました。そしてその後、オペアンプを使った回路に変更されて「オペアンプマフ」となります。中身がラムズヘッドの時は、筐体上部のスイッチはON-OFFスイッチで、オペアンプマフになるとトーンコントロールをカットするスイッチに変更されます。オペアンプマフの再現系やリイシューの音を聴く限り、ラムズヘッドに近いバランスでありながら、歪みの質が硬く、ゴリゴリとしてすっきりした感じで、トライアングルのジャリジャリ感は無いという印象です。
現行Big Muff Pi Reissueの出自とFrantone eraについて
では、3rdのリイシューとされている現行のBig Muff Piは何がベースか?と言うと、これらとはちょっと違う系統です。(オペアンプマフだけ別回路で、そのほかの回路自体はほとんど同じで、サウンドのチューニングが違う。)
リイシューが発売された当時(2000年)はノブがチキンヘッド(基板はEC3003)のもので、その後、現在のホッケーパック型に改められます。ホッケーパック型のものに変更された頃にEC3003-A基板となっています。設計は1999年から2000年にかけてエレハモに所属していたFran Blancheで、Fran BlancheはFrantoneというブランドを主催しているためFrantone eraと呼ばれています。
では、いつまでがFrantone eraと呼べるのか?について検討してみましょう。Fran Blancheの設計そのままなのがEC3003=チキンヘッドであり、EC3003の部品配置だけを変更(2001年 おそらく量産直前に追加されたコンデンサが基板に載っていなかったのを修正)したものがEC3003-Aです。ここまではFrantone eraと呼んで良さそうです。そして2007年頃に改訂されたEC3003-B以降は音の関わる部分の変更を受けており、しかもFran Blancheは在籍していません。というわけで、EC3003とEC3003-AだけをFrantone eraと呼ぶのが妥当ではないか?と私は考えています。
さて、Frantone eraの特徴は、高音域の明瞭度があって、低音が僅かにすっきりした感じ。歪みの質は鋭さがある印象です。
現在のBig Muff Pi(デカい箱のモデル)は基本的にFrantone eraの回路をベースに改良が続けられているものです。で、ここからがまた少しややこしいのですが、EC3003-B以降、低音から中低音は強く、歪みの質も丸くてクリーミーで押し出すようなサウンドの方向性に変更されます。そして、DCジャックが2.1mmセンターマイナスに変更されたあたりから、再度、鋭い方向に舵を切り直し、今回のEC-3003 REV.F(2024年末現在で最新と思われる)の個体に繋がってくるわけです。
近年の改良により、低音域が強く、鋭く、ゲインは高く、攻撃性が高められている模様ですが、Frantone era(EC3003-Aまで)に対して、マイルドになっているのか攻撃的になった(追い越した)のかは要検証項目となっています。ちなみに、最大音量についてはREV.Fの方が大きく、ボリュームPOTのテーパーが異なるため、12時ぐらいのポジションではFrantone eraの方が音量が大きく、MAX付近だと現行の方が明らかに音量が大きいという逆転現象が発生します。
Big Muff Pi Reissue(EC-3003 ver.F)のレビュー
中低音から低音に厚みがあり、そこに飽和感があります。設定次第ではアンサンブルで抜けてくるサウンドになりません。というか設定幅の大半はそんな感じ。音抜けを良くしようとトーンを右に回してゆくと中低音以下が一気に失われてスカスカになり、これはこれでアンサンブルで消えてしまいそうです。トーン低音側はすぐにモーモーいうようになります。全体的に中低音の存在感が強いものの、結構鋭さもあり、エッジの効いたディストーションサウンドが内包されています。リアシングルと組み合わせると低音域がすっきりとなって鋭さが足されて、枯れていて鋭さのある歪み感となります。ハムと組み合わせると低音の飽和感が強い、よく言えば厚みのある、悪くいうと籠ったようなサウンドとなります。
レビューがネガティブに見えるかもしれませんが、これが現在のマフだと言えばそうなので、こういうものとして割り切るのが正解だと思います。これが好きな人も多いと思っています。自分も一人で弾いている分には気持ちが良い。音の壁を作る感じ。
単体での個人的なお勧め設定は、全部12時から始めて、トーンを少しずつ(かなりシビアに)右に回していって、キレと厚みが両立するところを狙う設定です。PAF系ハムバッカーとの組み合わせだと、1時~1時半がベストで、2時に差し掛かるとスカスカガリガリしてしまいます。結構シビア。
そして、何よりもおすすめは前段に何かを置いてプッシュすることです。ビッグマフ系は、基本的に前段に何か置くことでエッジの鋭さの立った歪みになります。現行でも同様です。ミッドが少しスクープされたバランスにTSが合わないわけがなく、厚みと鋭さの同居するディストーションサウンドです。ただし、TSは低音がカットされるので、マフっぽさを演出する低音の飽和感や量感は無くなってしまいます。
同様に前段にTS置いて、共にローゲインで、カラッと乾いたクランチサウンドは、単体のディストーションで作るのとは違う「枯れ」や「素朴さ」が有ってよいです。
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