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指板オイルの要・不要論を徹底解説。『乾燥対策=オイル』は本当か?

ギターの指板メンテナンスについて調べると、「ローズウッドやエボニーの指板は乾燥するため、定期的にオイルを塗って保湿した方がよい」という説明をよく見かけます。実際に、指板用としてレモンオイル、ミネラルオイル、トリートメント、ワックスなどさまざまな製品が販売されています。私もBIGBENDS Fret Board Juiceや、HOWARD FEEDNWAXを使用していますし、使用そのものを否定するつもりはありません。

 しかし、「指板用オイルを塗ること」と「木材の乾燥を防ぐこと」は、本来分けて考えた方がよさそうです。今回、記事にするために、かなり本気で調べてまとめました。

木材の「乾燥」を左右するのは湿度

 まず押さえておきたいのが、木材に含まれる水分の性質です。

 米国農務省(USDA)のForest Products Laboratoryがまとめた『Wood Handbook』では、乾燥した木材に残る水分量は、周囲の空気の相対湿度と平衡する方向に変化すると説明されています。つまり木材は、湿度の低い環境では水分を放出し、湿度の高い環境では水分を取り込む。そして、表面に何かを塗れば、この水分移動を止められるわけではありません。

https://research.fs.usda.gov/treesearch/62261

 同じくUSDAの資料では、塗膜であっても木材への水分の出入りを完全には防げず、できるのは吸湿・放湿の速度を遅らせることだと説明されています。また、最終的に到達する平衡含水率そのものを塗膜によって変えることはできないとしています。ここから、指板用オイルやワックスにも表面からの水分移動を多少遅らせる作用は考えられる一方、「水分を補給して木材を保湿する」こととは別の話となります。

 ギターメーカーなどの説明を読むと、指板の乾燥や割れを防ぐために管理すべきものは、まずギターが置かれている環境の湿度を挙げています。Taylor Guitarsはギターの適正な相対湿度を45~55%としており、低湿度では木材が収縮し、指板ではフレット端が飛び出すなどの症状が現れ、さらに乾燥が進めば木材の割れにつながるとしています。Martin Guitarも同じく45~55%を推奨し、乾燥環境では割れや反りなどが起こる可能性を説明しています。

https://jp.taylorguitars.com/support/maintenance/symptoms-dry-guitar

 つまり、「乾燥割れを防ぎたい」という目的なら、指板にオイルを塗ることよりも、まず湿度計を置く方が本質的な対策になります。

木材は、オイルを塗って保管するわけではない

 このようなことを考える間に、ギターブランドが木材をストックしている動画をたまたま見かけました。ファクトリーツアーとか、特別オーダーしに行ったディーラーが木材を見せてもらっているシーンとかですね。

 ギター工房や木材業者では、ローズウッドやエボニーをはじめとする木材を板材の状態で長期間保管しています。しかし、乾燥割れを防ぐために木材全面へ定期的に指板オイルを塗る、という管理をしているわけではありません。オイルでしっとりしたストック木材って見たことあります? 

 身近なところでは、ハードオフのようなリサイクルショップに長期間展示されているギターです。すべての指板が定期的にオイルメンテナンスされているとは考えにくいにも関わらず、大半の指板が割れているわけではありません。

 このことはもちろん「だから指板オイルには意味がない」という直接的な証明ではありません。しかし、「オイルを塗らなければ指板が割れる」という単純な因果関係を考える上では、身近なひとつの反論となります。

では、指板オイルは不要なのか

 一方で、私も「指板オイルは一切使わなくてもよい」とは考えません。

 Taylor Guitarsは、未塗装の指板が乾いて見える場合には、少量の指板用コンディショニングオイルやボイルド・リンシードオイルを使うことを紹介しています。さらにBob Taylor自身も、レモンオイルやミネラルオイルなどの使用を認め、木材を美しく見せる効果について言及しています。

 長年楽器修理に携わったFrank Fordも、指板はオイルを「与えなければならない」ものではないとしつつ、ごく薄いオイルは指板をきれいに仕上げる効果があるとしています。

https://blog.taylorguitars.com/fretboard-oil

https://frets.com/pages/d6550fhf/Clean-up-your-Axe.php

 実際、ローズウッドやエボニー(私のRG8570はマッカサルエボニーです)に少量のオイルを塗れば、色が濃くなって杢目が鮮明になり、表面の触感もしっとり、あるいはサラサラしてプレイフィールが良くなります。

 つまり指板用オイルは、「指板を割れないように保湿するもの」というよりも、清掃や艶出し、色味やプレイフィールを整えるためのコンディショニング用品と考えた方が、実際の役割に近いのではないか?というのが、私の考えです。

問題になるのは「塗りすぎ」

 かなり調べましたが、指板用オイルを使う際に「多量に塗る」メリットは見当たらず、多くの場合が「塗りすぎ」に対して警鐘を鳴らしていました。

以前の私の写真。今思えば、これでも少し塗りすぎだったように思う。

 Bob Taylorは「塗りすぎ」を明確に注意しており、頻度についても多くて年2回程度、やがて年1回程度で十分としています。またTaylorの通常のメンテナンス方法でも、布に少量を付けて指板を拭く程度としています。Frank Fordも同様で、ごく少量を布につけて塗り、その後すべて拭き取るよう説明しています。特に、指板をオイルで飽和させたり、フレット溝へ大量のオイルを流し込んだりしないよう注意を促しています。

 過剰なオイルが指板上に残ることには、将来の修理という別の問題にも繋がります。

 リペア用品で知られるStewMacのリフレット工程では、新しいフレットを打つ前にフレット溝を清掃し、ナフサを使って溝に残った「oil and debris」を浮かせて取り除いています。古い接着剤やゴミ、油分が残っていると、新しいフレットを指板へ完全に着座させる作業の邪魔になるためです。

https://www.stewmac.com/video-and-ideas/online-resources/learn-about-guitar-and-instrument-fretting-and-fretwork/essential-fretting-tools–techniques

またフレット交換では、瞬間接着剤やエポキシ、Titebondなどを併用する方法もあります。StewMacも、瞬間接着剤を直接フレット溝へ入れてフレットを固定する方法を紹介しています。このとき、フレット溝に残ったオイル類が、接着剤での固定の邪魔をする恐れがあり、それを指摘するリペア工房の解説も多く見られます。

 よって、必要以上にオイルを染み込ませてフレット溝にまで残留させることは、少なくとも将来のリフレット作業を楽にする方向には働かないと言えるでしょう。

 なお、オイルを過剰に染み込ませることで木材が軟化すると指摘するユーザーやリペアマンもいます。この点については、私が確認した範囲ではデータや検証は見つかりませんでした。

指板オイルは「少量を、必要なときだけ」でいい

 以上を踏まえると、私の意見としては「指板用オイルを完全に否定する必要はない。しかし塗りすぎは避けるべき。」と提言します。表面の艶や色味、プレイフィールを整えたいときに、ごく少量を使用するのが良いでしょう。

 指板割れ予防への効果も期待できないので、頻度を決めて塗る必要もないと考えています。自分の目安としては多くても年1~2回程度。オイルを指板へ直接大量に垂らすのではなく、布に少量を含ませ、表面がわずかに濡れる程度に伸ばすことを心がけます。そして最後に乾いた布で余分な油分をしっかり拭き取る。

 そして、これを読んでいる方が本当に心配しているのが「指板が乾燥して割れること」なら、指板用オイルの銘柄を選ぶ前に湿度計を買い、室内の湿度を45~55%に保つのが良いと考えます。

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